建設業界において、あまり知られていない仕事として、発注者という役割があります。
建設に関する発注者の仕事としてよく知られているのは、都道府県、市町村などの公共施設の営繕業務を行う公務員ではないでしょうか。
しかし、公的機関だけではなく、民間企業でも営繕業務は必須です。
企業の活動においては、保有している施設を維持保全する、あるいは建築物を新築する行為が発生します。
企業の業種もさまざまです。電力、ガス、各メーカー(自動車、食品、医薬品、化学、衣料品etc)、小売業、鉄道など。
扱う建築物もさまざまです。プラント、工場、事務所、研究所、店舗、倉庫など。
特に大手企業においては、これらの建築物を、新たに建築したり維持保全するのに、全ての業務を外注するわけではありません。
自社にファシリティ部門を設けて管理している企業が多くあります。
あまり知られていませんが、このような発注者としての需要は多くあります。
これらは、求人情報や企業のHP採用情報などで確認することができます。
今回は、建設に関する発注者のお仕事を紹介したいと思います。
筆者の経緯
私が建設業界に足を踏み入れたのは18歳でした。
もともと、建設や建築を志していたわけでは全くありません。
高校は普通科でした。当時は高校を卒業したら、経理とか総務とかの事務職に就きたかったです。
しかし、高卒で就職した企業の配属先は事務職ではなく、技術系の建設部門でした。
立ち位置は専門工事会社です。全く想定外でした。
今のご時世では配属ガチャとか言って、退職代行サービスを利用するところかもしれません。
しかし、今から30年以上も前の話しです。
当時はそんな発想はありませんでした。
その環境で我慢して働くしかありませんでした。
当時の私の立ち位置は、専門工事会社でした。
1次下請か2次下請か、それ以下かは、そのプロジェクトの発注形態の状況によりました。
専門工事業者の立ち位置でも、設計図書を見ることができます。
専門工事業者の役割は、大まかにいえば、設計図書に沿って施工図を作成して、承認を得て、その通りに施工します。
当時は、なぜこういう設計図書になったのだろう?とか、この設計図書を作成するに至った経緯は?とか、さらには、誰がなぜこの建築物を建築することを決めたのか?といったことに興味を感じていました。
しかし、専門工事会社にいる限りは、そんな理由は分かるはずもありません。
当時の上司が一級建築士の資格保有者だった影響もあり、建築士の資格を取ってみたいと思うようになりました。
設計という上流の立ち位置で建設プロジェクトに関わることが出来れば、景色が変わると思いました。
その後、建築の専門学校に通い2級建築士の受験資格を得ました。そのあたりの経緯は→こちら(自己紹介)
建築を学んだ人の就職先、進路は?
一般的に、建築を学んだ人たちが考える進路は以下ではないでしょうか。
- 設計事務所(意匠、構造、設備)
- 施工会社
- 不動産会社
- 各種専門工事会社
- 住宅メーカー
- 建材メーカー
- 独立起業 など
しかし、この記事でご紹介したい仕事は、上記ではありません。発注者の仕事についてです。
私のキャリアは、専門工事業者に始まり、設計事務所を数社経験し、発注者として建設行為に関わることになりました。
それぞれの立ち位置によって、建設プロジェクトの見え方が全く異なります。
私は、専門工事会社を退職したあと、二級建築士の資格を取得しました。
その後、設計事務所など何回か転職を経験しました。
ある時期の就職活動中に、当時ビーイングという就職情報誌を見ました。
すると、某大手企業の発注者の求人情報が掲載されていました。
設計事務所は、やりがいのある仕事でした。
しかし、私が所属していた設計事務所は個人事務所ということもあってか、薄給激務であり生活が安定しませんでした。
大手企業であれば福利厚生もしっかりしていて、さらに建設プロジェクト全体を俯瞰できる立場になるのではないかと、興味が湧きました。
当時の私の主な経歴は、二級建築士の資格保有と設計事務所での数年間の勤務経験だけでした。
こんな経歴で大手企業に採用されるとは思いませんでしたが、ダメもとで応募してみました。
するとなんと採用されました。
当時の年齢が20代半ばだったことも採用された大きな要因だと思います。
その後は発注者としてのキャリアを重ねていくことになりました。
発注者という初めての仕事と大手企業という環境に、当初は非常に重圧を感じていました。
転職にはリスクがあります。
失敗した時のリスクは小さくはないです。
しかし勇気を出して前に進みました。
結果論ですが、私の場合は正解でした。
これまで5回の初出社を経験していますが、毎度毎度イヤな緊張をしていたことを思い出します。
私の場合特に思ったのは、嫌な人がいなければいいな、ということに尽きます。
こればかりは自分ではどうしようもできないからです。
うまく立ち回ればいいのでしょうが、その人によってはどうしようもない場合があります。
私生活であれば、付き合わなければいいだけですが、仕事ではそうはいきません。
今までは、幸いにもそういった致命的に嫌な人はいませんでしたが。
余談ですが、この時は知りませんでしたが、「チーズはどこへ消えた?」という本が、発注者への転職当時の私の状況を表しています。
これまで私は5回の転職を経験しています。
後日、この本を読む機会があり、この本に出てくるネズミを、あの時の私のようだと思いました。
あの時勇気をもって行動して本当によかったと改めて思いました。
このブログのトップページに、私の座右の銘を掲載していますが、それをもじると、
「行動したからといって成功するとは限らない。しかし成功した者は皆行動している」です。
発注者のメリットデメリット
私は、建設行為の発注者として20年以上のキャリアがあります。
公共建築物などの営繕業務における発注者(公務員)については、ここでは触れません。
今回は民間企業の発注者について、筆者が考えるメリットデメリットを紹介します。
〇メリット
・建設の専門部署がある企業は大手が多く、雇用条件や福利厚生が良い場合が多いです。
・発注者は建設プロジェクトの上流に位置し、全体を俯瞰できます。意思決定の段階から計画に関わることができ、建設行為に関して理解が深まります。そういう意味ではスキルアップにつながると思います。
・結構需要はあります。求人情報を常にチェックしましょう。
・協力会社さんから、そこそこちやほやしてくれます。しかし発注者だからといって偉そうにしてはダメです。公私混同はいけません。結局自分が損をします。
・資格はあったほうがいいですが、資格が無くても経験があればいけるところが多いです。しかし、応募条件が特定の資格保有など、指定されている場合は別ですが。設計事務所やゼネコンの場合は、資格はあって当たり前の世界ですが、発注者界隈はそんな世界でもありません。あった方がいいのは確かですが。
〇デメリット
・公務員であれば新卒募集がありますが、民間企業の場合、新卒募集は少ないです。ほぼないと思います。資格や経験が必要です。
・社内的な役割はその企業の本業をサポートする立場です。とにかくサポートが最優先。それが存在意義といっても過言ではありません。本業に振り回されることは覚悟しなければなりません。
・どんな仕事でもそうですが、長時間勤務や緊急対応が求められる場合もあります。また、土日祝など関係ない場合もあります。本業ファーストなので。その辺りは、事前に確認しておく必要はあります。
・一般論として、その企業の中であまり出世は出来ません。せいぜいファシリティ部門の部長止まりです。設計事務所やゼネコン勤務であれば話は別ですが。
・いろんな建築物に関わることはできません。その企業が保有している施設のみに関わります。例えば、工場とか、事務所とか、店舗とか、研究所とか。言い換えれば、その施設に特化した知識を得ることはできます。
・各地に事業所がある場合は、転勤のリスクがあります。
・モノ作りが好きな人には向かないと思います。自分で手を動かすより、マネジメント力が重要です。
発注者の求人があるか調べてみましょう
求人記事を転載できればいいのですが、著作権の問題もあるようなので、ここでの掲載は控えたいと思います。
しかし簡単に確認できるので試していただければと思います。
例えば、以下のワードで検索してみてください。
「企業名 建設 建築 施設管理 発注者」といったワードで検索すれば、その企業に建設の専門部署があるか、募集しているかなどが大体分かります。
その募集内容に応じて、自分のスキルにあったものを探すことになります。
例えば、募集内容が、既存の施設の維持管理系であれば、電気や機械などの設備の知識があれば有利だと思います。
一方で、新築系の求人であれば、建築や許認可申請の知識などがアピールできます。当然設備の知識も有効ですが。
学歴の縛りがあるケースもあります。建築系の求人は「専門学校卒以上」というケースが多いです。しかし、最終学歴「大学院、大学卒以上」や、「大学卒」といったケースもあります。いまどき、通年採用で学歴の縛りを設けているのもどうかと思いますが、現実に実際あるだけに仕方ありません。
まとめ
建築系の仕事は、設計事務所やゼネコンだけではなく、発注者という仕事もあります。
発注者の仕事にはメリットデメリットがあります。
発注者は、建設プロジェクトを俯瞰して全体が見渡せる立場です。
あまり知られていない仕事だと思いますが、選択肢の一つとして検討してみてはいかがでしょうか。以上、建設業界において転職をお考えの方の参考になればうれしいです。最後までお読みいただきありがとうございました。